旅と映画

行ったところと観た映画の個人的な記録

クロッシング

アジアフォーカス福岡国際映画祭、今年の締めくくりは関連企画・福岡アジアフィルムフェスティバルで観た、キム・テギュン監督の「クロッシング」。
2008年の作品で既にDVDも発売済み。私がよく行くGEOにも入っているが、観るのに気合がいりそうで、何となく観ないままになっていた作品だ。
舞台は北朝鮮咸鏡南道。炭鉱のある地域だそうで、主人公のヨンスも炭鉱で働いている。
平壌では高層のビルが増え、人々の暮らしもだんだんに豊かになっていると聞くが、この映画に描かれている咸鏡南道の風景を見ると(公開が2008年であることを差し引いても)、地方はまだまだではないかと感じる。道路は舗装されていないし、何よりも食料が十分でない。
ヨンスの妻・ヨンハも栄養失調であり、しかも結核に感染している上、妊娠が発覚する。ヨンスは妻、お腹の子ども、息子のジェニを生かすため、危険を冒して中国に出稼ぎに行くが、これが妻子との長い長い別れになってしまう・・・
正直、この映画を観たのは「シアター・プノンペン」を観に行ったら次に予定されていたのがこの映画で、チケットもあまっているからこの機会に観てみようかくらいの気持ちだった。
ところが、これが韓国映画の「遠慮のなさ」を思い知らされる作品だった。ハリウッド映画だったら、絶対あんな結末にはしない。
去年のちょうど今頃、シリア難民の5歳男児の遺体がトルコの海岸に打ち上げられ、世界に衝撃を与えたことを思い出した。
ハリウッド映画に描かれない、残酷で悲惨な現実は世界中にあふれているのだ。
観ていて胸の苦しくなる映画だが、ラストシーンは美しい。
これほど悲しく、優しい雨のシーンを他に知らない。