旅と映画

行ったところと観た映画の個人的な記録

2022-01-01から1年間の記事一覧

「そばかす」

KBCシネマで、2022年最後の映画鑑賞。ものは玉田真也監督の「そばかす」だ。 名古屋のテレビ局メ~テレが企画した、自分らしく生きようとする女性たちを描く「(not)HEROINE movies」プロジェクトの二作目である。主人公の蘇畑佳純(そばたかすみ)を演…

泉鏡花記念館を訪ねる

思いがけない用事で、金沢に行く機会に恵まれた。実は石川県どころか、北陸地方に行くのが初めて。新幹線の車窓から眺める景色も物珍しく、短いながら思い出深い旅行となった。 金沢といえば、泉鏡花の故郷である。11月に東京・神楽坂の旧居跡を訪れたばかり…

「ペルシャン・レッスン 戦場の教室」

キノシネマ天神で、ヴァディム・パールマン監督の「ペルシャン・レッスン 戦場の教室」を鑑賞。物語は第二次世界大戦中、ドイツ兵に射殺されそうになったユダヤ人の青年・ジルが、とっさに「自分はペルシャ人だ」と嘘をついたことから始まる。兵士たちはジル…

「土を喰らう十二ヵ月」

中洲大洋で、中江裕司監督の「土を喰らう十二ヵ月」を鑑賞。水上勉の随筆が原案だ。妻に先立たれ、ひなびた山奥の農家で畑仕事をして暮らしている老作家のツトムを沢田研二、ツトムの担当編集者で年の離れた恋人の真知子を松たか子が演じている。 なんとも豊…

松代大本営を訪ねる6.[松代大本営と戦後]

帰りに長野駅前で、Mさんから小さな石碑を教えられた。表には「日朝親善 恒久平和」、側面に「友愛」の文字が見える。1960年に在日本朝鮮人総連合会の長野県本部が建てたものだ。 松代大本営の建設工事は日本の敗戦とともに中断されたが、朝鮮人労働者みな…

松代大本営を訪ねる5.[賢所と「純粋日本人」]

賢所の造営にあたり、宮内省からはもう一つ注文が出ていた。それは掘削は「純粋日本人の手による」というものだった。 松代大本営の建設工事には、様々な人が動員されている。計画から調査、設計までを行ったのは陸軍省軍務局や兵務局だが、実際の工事にあた…

松代大本営を訪ねる4.[松代大本営と天皇制]

強制立ち退きはこれだけにとどまらなかった。翌1945年4月、今度は西条村の村民124世帯に立ち退きが命じられた。軍から長野県知事に対し要請があり、さらに知事から西条村村長に「軍の施設を作る」という名目で協力が求められたのだった。 求められた協力と…

松代大本営を訪ねる3.[なぜ松代だったのか]

松代象山地下壕まではJR長野駅からバスで約30分。松代八十二銀行前で下車して、さらに20分ほど歩く。東京はまだ晩秋の気候だったが、長野は既に冬を思わせる冷たい風が吹き始めていた。 大本営の移転を最初に提案したのは、陸軍参謀の井田正孝少佐である。…

松代大本営を訪ねる2.[松代大本営とは何か]

松代大本営については、先の記事で「アジア・太平洋戦争末期、敗戦色も濃厚となった1944年から45年にかけ、長野県埴科郡松代町(現長野市松代町)に作られた地下軍事施設群」と書いた。これについてもう少し詳しく見ていこう。 まず、「大意本営」とは天皇直…

松代大本営を訪ねる1.[まずは神楽坂など]

11月中旬、長野県を訪ねた。金子文子が縁で知り合い、その後伊藤野枝や前田卓(つな)の墓を一緒に訪ねた、SさんとMさんのお誘いである。目的地は松代象山地下壕。「松代大本営」といった方が、通りは早いだろう。 松代大本営とはアジア・太平洋戦争末期、…

「マイ・ブロークン・マリコ」

キノシネマ天神で、タナダユキ監督の「マイ・ブロークン・マリコ」を鑑賞。 主人公のシイノトモヨは、ラーメン屋のテレビで見たニュースで、親友のイカガワマリコの死を知る。作中で明言はされないが、自殺と思われる。マリコは幼い頃から、性暴力を含む虐待…

「秘密の森の、その向こう」

KBCシネマで、セリーヌ・シアマ監督の「秘密の森の、その向こう」を鑑賞。前作「燃ゆる女の肖像」に引き続き、今回も女性たちの物語だ。 主人公のネリーは8歳の少女。おばあちゃんが亡くなったので、両親とともにおばあちゃんの家を片付けに来ている。し…

今年も9月1日を東京で過ごす5.[国立国会図書館と神保町]

東京滞在最終日。帰りの飛行機の便まで時間があるので、国立国会図書館へ行く。国会図書館へは、2019年9月に東京に来た際、やはり最終日によろうとしたらその前の晩に関東地方に台風が上陸。これが大変な被害を出し、各地で交通網がマヒするなどして駅で2…

今年も9月1日を東京で過ごす4.[亀戸事件犠牲者之碑]

横網町公園での朝鮮人犠牲者追悼式典に参加した後は、亀戸に向かった。目的は赤門浄心寺の「亀戸事件犠牲者之碑」。 亀戸事件とは関東大震災の混乱のさなか、南葛飾郡亀戸町(当時)付近を拠点に活動していた労働組合員らが検束され、9月4日から5日にかけ…

今年も9月1日を東京で過ごす3.[朝鮮人犠牲者追悼式典②]

関東大震災から99年目となる2022年、東京都立横網町公園で朝鮮人犠牲者追悼式典が行われた。2020年、21年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、規模を縮小しオンラインで配信するなどの方法で行われたので、通常通りの開催は2年ぶりとなる。式典が始まる…

今年も9月1日を東京で過ごす2.[朝鮮人犠牲者追悼式典①]

東京都立横網町公園に、関東大震災時に虐殺された朝鮮人犠牲者の追悼碑が建立されたのは1973年のことである。関東大震災の発生から50年目にあたるこの年、日朝協会東京都連合会が建立を呼びかけ、これに約600名の個人と約250の団体が賛同をした。賛同したの…

今年も9月1日を東京で過ごす1.[関東大震災から99年目]

関東大震災の発生から99年となる2022年、2年ぶりに東京で9月1日を過ごした。都立横網町公園で毎年行われている、関東大震災時の朝鮮人犠牲者追悼式典に参加するためだ。去年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、参列するのは関係者に限られ、一般の参…

「アトランティス」

KBCシネマで、ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督の「アトランティス」を鑑賞。ヴァシャノヴィチ監督は1971年、ウクライナ生まれ。ドキュメンタリー映画を多く撮ってきたが、本作では2025年という近未来を舞台に「戦争が終わった後の世界」を描いている…

「戦争と女の顔」

KBCシネマで、カンテミール・バラーゴフ監督の「戦争と女の顔」を鑑賞。ノンフィクション作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチが、第二次世界大戦の独ソ戦に従軍した女性たちの体験を聞き取った「戦争は女の顔をしていない」が原作だが、そのまま映像…

「ナワリヌイ」

KBCシネマで、ダニエル・ロアー監督の「ナワリヌイ」を鑑賞。ロシアの政治活動家アレクセイ・ナワリヌイを撮ったドキュメンタリーだ。 ナワリヌイは、プーチン政権を批判する反体制派として知られる人物だ。2020年8月、西シベリアのトムスクからモスクワ…

旧中野刑務所(旧豊多摩監獄)跡

6月に所用で東京に行った際、旧中野刑務所跡を訪ねてきた。JR中野駅から歩いて15分ほど。現在は正門のみが中野区の文化財として保存されており、他の建物は既に解体されて残っていない。この正門も、現在の場所から100メートルほど西に移転する計画がある…

「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」

中洲大洋でチャン・イーモウ監督の「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」を鑑賞。舞台は1969年、文化大革命の渦中にある中国だ。主人公は強制労働所を脱走してきた男。造反派の恨みを買ったために強制労働所送りになり、妻や娘とは絶縁している。だが、「22号…

「ツユクサ」

キノシネマ天神で、平山秀幸監督の「ツユクサ」を鑑賞。とにかく出演している俳優陣がよい。主人公を小林聡美、彼女と恋に落ちる男性を松重豊、友人役に江口のりこ、平岩紙と個性と実力を兼ね備えたキャスティングで、これだけで観に行きたくなる。 伊豆半島…

「親愛なる同志たちへ」

KBCシネマで、アンドレイ・コンチャロフスキー監督の「親愛なる同志たちへ」を鑑賞。ロシアの地方都市ノヴォチェルカッスクで、1962年6月に実際に起きた軍による労働者の虐殺を描いた作品だ。実はこの映画、ロシア文化庁の製作である。公式サイトによる…

桜の時期に5.[東京憲兵隊本部跡]

帰りの飛行機の時間が迫る中、最後にもう1ヶ所だけ寄ってきた。東京憲兵隊本部跡である。大杉栄と伊藤野枝、甥の橘宗一が殺害された現場だ。 3人が殺されたのは1923年9月16日。実行犯は陸軍憲兵大尉の甘粕正彦だが、野枝と大杉の遺体は胸骨や肋骨が何本も…

桜の時期に4.[靖国神社 ――会津人柴五郎の遺書から考える――]

東京滞在最終日。飛行機の時間まで少しだけ余裕があるので、一度行ってみなければと思いつつ、わざわざ予定を組むのも気が進まず、後回しにしていた場所に行ってみることとした。靖国神社である。 靖国神社が創建されたのは1869年。当時の名前は東京招魂社。…

桜の時期に3.[横浜海岸教会]

今回の主な目的地の一つが横浜である。横浜に行ってみたいと思ったのは、有名な中華街を歩いてみたいから。単にそれだけなのだが、折角行くのであればもう少し別の場所も訪ねたい。それで思い出したのが村木源次郎である。 村木は1890年横浜で生まれ、少年時…

桜の時期に2.[新しくなった将門塚]

有楽町の食堂「御食事いわさき」でお昼を食べたら、大手町まで歩いて移動。目指すは新しくなった将門塚である。 平将門の首塚である将門塚の第6次改修工事が行われたのは、2020年11月から2021年4月にかけて。「史蹟将門塚保存会」によると、この改修工事は…

桜の時期に1.[岩崎善衛門と社会主義おでん]

4月のはじめ、東京と横浜を訪ねてきた。以前から一度、桜が咲いている時に訪ねてみたいと思っていたが、桜のシーズンといえばちょうど年度末、年度初めと重なっている。流石にこの時期に仕事を休むことは難しいので、かなわずにいた。ところが、今年は4月…

管野須賀子の墓

金鳳山平林寺に前田卓(つな)の墓を訪ねたのは1月23日。翌24日は、幸徳秋水ら大逆事件の犠牲者が処刑された日である。社会主義者や無政府主義者への大規模な弾圧である大逆事件は、1911年1月18日に死刑判決が出たわずか6日後に、異例のスピードで刑が執…