KBCシネマでトビアス・リンホルム監督の「ある戦争」を鑑賞。デンマークの映画だ。
北欧・デンマークというと、高福祉国で平和的なイメージがあるが、デンマークは徴兵制度を持っている国である。この映画の主人公は職業軍人で、アフガニスタンで平和維持活動に従事している。
タリバン政権崩壊後のアフガニスタンでは、多国籍軍から構成された国際治安支援部隊(ISAF)による支援活動が行われていたが、デンマークもISAFに軍隊を派遣している。2014年までの支援活動中、750名を派兵し、内43名が亡くなった。
この映画でも、冒頭から巡回中の兵士が両足を吹き飛ばされて死亡する。仲間の死を目の当たりにして、精神的に不安定になる若い兵士もいる。
主人公のクラウスは部隊の隊長を務めている。彼は自ら巡回に加わることで、部隊内の混乱を鎮めようとする。
ある日の巡回中、地元民の男がクラウスの部隊に助けを求めてくる。娘がけがをしたという。しかし、地元民の中にタリバンの残党が紛れ込んでいる可能性もある。クラウスたちが警戒しながら男の家に行くと、確かに腕にやけどをした少女が苦しんでいた。クラウスたちは少女を介抱してやる。
感謝した男は、治安維持活動に協力するようになる。
ところが、しばらくするとまた男が助けを求めて、今度は基地にやってくる。治安支援活動に協力したために、男はタリバンに脅されていた。「子どもが殺されるかも知れない」と恐怖を訴える男を、クラウスは「今は何もできない。明日、必ず行く」と言って帰らせる。
だが翌日、クラウスたちの部隊が男の家に出向くと、一家はすでに全員が殺害されていた。その直後、突然戦闘が始まり、部下の一人が重傷を負う。
戦闘は激しく、部隊は危機的な状況に追い詰められる。重傷を負った部下も瀕死の状態だ。クラウスは無線で空爆を要請し、間一髪、危機を逃れる。瀕死の部下も病院へ搬送され、一命を取り留めた。
しかし、この空爆により子どもを含む民間人11名が死亡していた。クラウスはデンマークに帰国させられ、裁判にかけられることとなる。
重いテーマである。もし自分だったら・・・と、安易に置き換えることに躊躇を感じる。この映画の感想を書くのにも、何をどう書くか非常に迷った。「デンマークは大変なんですね」と他人事のように語るのは、絶対に違うと思うのだ。
リンホルム監督へのインタビューによると、現実にこのような事件は起きているのに、あまり報道されていないことがこの映画を作ったきっかけであるという。
映画を通して、デンマーク国内でアフガニスタンに兵士を派遣することの議論なども起きるようになったそうだが、デンマーク軍は現在シリアへの爆撃に加わっている。