9月1日午前11時前、JR両国駅西口を出ると既に公安が何人も立っていた。駅の外では、そよ風が「石原町犠牲者慰霊祭」と称した朝鮮人虐殺犠牲者追悼式典への妨害を行うことに抗議する人たちが、プラカードを掲げ街頭アピールを行っている。私が見た時は控えめなマイクの音量で女性が静かに訴えており、何人もの公安でこの人たちを監視する必要があるとは思えなかった。
追悼式典が行われている横網町公園に着くと、公園の入り口という入り口に警察官が配置されており、気軽に立ち入ることのできない雰囲気になっていた。それでも比較的入りやすそうなところから入り、公園内を半周してみて驚いた。そよ風が集会を行っている石原町遭難者碑の周りを大きくぐるりと取り囲んでバリケードが貼られ、全く近付けないようになっている。前回私が追悼式典に参加した2018年には、ここまで厳重ではなかったように思う。勿論、ここにも多数の警察官が配置されている。
公園内には虐殺犠牲者の追悼式典実行委員の姿もちらほら見られた。途中、「ヘイトスピーチ許さない」と書かれたプラカードを持った男性が公園内に入ってくると、実行委員の名札を付けた人がその男性に声をかけ、今年の追悼式典についての説明を行っているようであった。そよ風とのトラブルを回避しようとする配慮が感じられる。
一旦公園を出、そよ風が集会を行っている辺りに外から近付いてみたが、警察車輌が何台も連なって壁を作り、外からも彼らの集会の様子を見ることはできなかった。
道路を挟んで、そよ風の集会に抗議するカウンターの人たちが立っている。そのカウンターから集会参加者を守るかのように警察官がズラリと並んでバリケードとなり、さらにこの模様を取材する報道陣、監視する公安などで一帯は混然としていた。
私はプラカードは準備していなかったが、抗議のためにカウンターの人たちと一緒にその場に立った。通常このようなヘイトスピーチの現場は、激しい怒声が飛び交い騒然としているものだが、この日は違っていた。去年のようなトラブルは避けるようカウンターの人たちの間で周知されているのか、皆無言でプラカードを掲げていた。ヘイトスピーチを行っていると認定された団体の集会を警察が守っていることについて、「恥ずかしくないのか」といった非難の声は幾度か上がったが、基本的にはサイレントアピールだった。
ただ、そよ風の集会参加者が公園の中からこちらにカメラを向け、カウンター側の様子を撮影し始めた時には怒声が沸き起こった。そよ風側への怒りも勿論であるが、その場にいながらそれを制止しない警察官への怒りである。この他にも彼らは「真実の関東大震災慰霊祭会場はこちらです」と書かれた案内板をカウンターに向かって掲げたりもした。そうした行動を警察官が止めることは一度もなかった。
そよ風の集会が終わったのは12時40分頃。まず、警察官の動きが慌ただしくなり、次いで集会参加者が公園から出てきた。人数は30~40人ほどだろうか。中高年の男性が多いが、女性も数人いた。恐らくはそよ風の中心メンバーだろう。途端にカウンターの人たちが一層高くプラカードを掲げ、強く抗議の声を上げた。ただし、この時も私が見ていた限りでは直接こぜりあいになったりすることはなく、カウンターの人たちは終始自制的に行動していたように思う。激しくやりあったのはこの後、JR両国駅前でだと伝え聞いているが、目撃していないので詳細はわからない。
そよ風側の参加者が去った後、改めて横網町公園内に入り、朝鮮人犠牲者追悼碑に手を合わせた。