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追悼する人々と百年目の東京4.[横網町公園で起きたこと②]

 そよ風ら「慰霊祭」の参加者は、いったん石原町遭難者碑の前に集合した後、朝鮮人犠牲者追悼碑の前に移動し、「慰霊祭」を行うつもりであったようだ。9月3日付のそよ風公式ブログに、集合から「慰霊祭」の様子までを撮影した1時間20分ほどの動画がアップされている。

 この動画を見ると、そよ風らは「慰霊祭」開始時刻16時30分の15分ほど前から、追悼碑の前に移動をしようとしていた。だが、横網町公園に集まったカウンターの人々と衝突することを懸念した警察から止められる。動画には、予定通りに16時30分から「慰霊祭」をさせるよう、警察に詰めよるそよ風関係者の姿が映っている。「不法に占拠している人たち(注:カウンターのこと)を帰して下さい」といった発言が聞き取れる。

 既にカウンター側からは「レイシスト、帰れ!」の声が上がっており、「慰霊祭」参加者らも「(カウンターに向かって)帰れ、帰れ!」「日本人による朝鮮人慰霊を妨げるのはやめなさい!」「これは東京都の碑ですよ!あなた方に権利はありません!」などと叫び返している。(自分たちには権利があるというのだろうか)

 そよ風の名誉顧問を務める男性は、警察と東京都の職員に対し「彼ら(カウンター)をどかせて下さい、警察の方、お願いします」「東京都と警察の責任において、4時半から我々の集会を開催させて下さい」と要請している。「慰霊祭」参加者の間から、「なんのために機動隊つれてきてんだよ」「機動隊使えよ」「強制排除だ」といった声が上がっているのも聞き取れる。暴力的な排除も辞するなと言っているに等しい、非常に問題のある発言だ。

 そよ風側は、抗議に集まっている人々は16時まで公園を使用していた団体の関係者で、時間が過ぎているのに場所を明け渡さず、不法に占拠していると解釈しているようだ。だが、当日私が見ていた限り、この人たちは何らかの団体に動員されたのではなく、自分の意思でやってきた個人の集まりのように感じられた。

 私のすぐ横で怒りながら動画を撮っていた青年は韓国からの旅行者のようだったし、そもそも私自身、誰かに言われたからではなく、100パーセント自分の意思でここに来た。また、例年にないことであるが、私はこの場で何人もの知り合いと顔を合わせた。その人たちは福岡や京都から足を運んでおり、彼らもまた自発的な行動だった。この日の横網町公園には、東京都在住者のみならず、広く全国、あるいは海外からも「死者への冒涜を許さない」と憤る人たちが集結していたのだ。

 

 警察がカウンターを公園から排除しないので、ついにそよ風らは移動を強行しようとし始めた。「我々の先祖の名誉を守るための行動を開始します」と言って、力で強引に押し切ろうとしたのである。だが、大勢の警察官に阻まれ、押し返されてしまう。現場は「慰霊祭」参加者の怒声でたちまち騒然となった。

 動画の中には、聞くに堪えない暴言も収められている。男性の参加者が「警視庁働け、コラ。税金泥棒」と警察官を恫喝する様子。東京都の職員に向かって、「使用料払ってやってるんだ」「金返せ、使用料返せ」と居丈高に罵る様子。「顔出せ、顔」と大きな声を出しているのは、職員の顔を映してネット上でさらそうという意図か。異議申し立てをする時に、礼儀正しく上品にふるまう必要は全くないと思うが、これが今から「慰霊」をしようという人の態度だろうか。

 と、そのような混乱状態の中、一人の東京都職員が大きな声で叫んだ。

 「公園の利用制限かかってます!」

 利用制限とは何か。「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」(オリンピック条例)の第十一条では、このように定めている。

 

第十一条 知事は、公の施設において不当な差別的言動が行われることを防止するため、公の施設の利用制限について基準を定めるものとする。

 

 前回の投稿で触れた、8月29日に識者らが出した「東京都は『慰霊の公園』での死者への冒涜を阻止してください」という共同声明で要請されていたのが、まさにこの利用制限だった。動画の中で都の職員はこうも言っている。

 「東京都がそういう決定を出してます」「すみやかに公園から退去して下さい」

 この動画から見て取れるのはそれだけで、これ以上の詳細は不明である。共同声明での要請に応じたものなのかどうかも、わからない。だが、東京都の決定により、そよ風らの「慰霊祭」に対し利用制限がかかったことは確かなようである。

 当然、そよ風側の反発はすさまじい。

 「身分証明書、提示しろ」「なんで東京都そんなに弱腰なんだよ」「不法占拠しているのは向こうでしょ」「弾圧を許さないぞ」「今日に至るまでに色々話し合いしてるじゃないですか」「こっちは年寄りがいっぱいいるんだ。死んだらどう責任取るんだ」

都の職員の制止も聞き入れず、しまいには「ワッショイ、ワッショイ」とかけ声をしながら無理に進もうとする始末。しかし、四方八方から警察に押さえ込まれてしまう。この時点で予定の16時30分は過ぎているはずだ。さすがにこれ以上ねばると、「慰霊祭」そのものができなくなると判断したのだろうか。「あずまやのところ(石原町遭難者碑の近く)まで、いったん撤退します」と言って、引き返し始めた。参加者が悔しまぎれに「東京都ぶっつぶしてやる、ゴミクズ、コラ」と怒鳴っている。

 

 そよ風がアップしている動画から見て取れるのは、以上のようなことである。虐殺の犠牲者を悼むために建てられた碑の前で、ヘイト集会が行われることは阻止された。死者の尊厳を守るために、行動を起こした人たちの努力が実った結果と言ってよいだろう。

 とはいえ、本来であれば静かに追悼する日にこのような騒動が繰り広げられ、追悼碑の周りにバリケードが張り巡らされているのを見るのは辛いことだった。来年こそは静かに手を合わせ、二度と繰り返さないとの思いを新たにする日としたい。

 

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