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追悼する人々と百年目の東京3.[横網町公園で起きたこと①]

 朝鮮人犠牲者追悼式典への妨害行為や、ヘイトスピーチを行ってきた団体「日本女性の会 そよ風」が、今年も「慰霊祭」を行うとの告知を公式ブログに出したのは8月11日だった。そよ風はこれまでにも横網町公園内の石原町遭難者碑の前で「慰霊祭」と称する嫌がらせを行ってきていたが、今年は9月1日の16時半から、朝鮮人犠牲者追悼碑の前で「真実はここにある!真実の関東大震災朝鮮人犠牲者慰霊祭」を行うというのである。

 そよ風の過去の「慰霊祭」の中での発言が、2020年、東京都総務局人権部によりヘイトスピーチにあたると認定されたのは、先の投稿で触れた通りである。今回の「慰霊祭」に際してもブログなどで、朝鮮人が虐殺されたのはテロなどを計画していたからで、いわば日本人の正当防衛であるという主張をしている。「慰霊祭」は、そのために殺された「二百数十人」の朝鮮人を追悼するという趣旨である。虐殺を正当化・矮小化し、犠牲となった人々に汚名を着せるものだ。しかもそれを犠牲者を悼むための碑の前で行うのである。絶対に許されることではない。

 そよ風がこのような「慰霊祭」を予定していることが明らかになると、まずネット上で怒りと非難の声が上がった。次いで新聞などのメディアが、「死者への冒涜である」と批判的な論調で報道し始めた。これにはそよ風関係者も驚いたようで、8月18日付のブログで「そよ風は産経新聞チャンネル桜以外のマスコミ取材には応じない」と前置きした上で、「朝鮮人慰霊祭を主催してきた人々こそ、我々の先祖の死者を冒涜している」と反論している。(余談ながら、そよ風は朝鮮人犠牲者追悼式典のことを、一貫して「朝鮮人慰霊祭」と言っている。慰霊という言葉はもとは神道の用語なので、何か彼女たちなりのこだわりがあるのかも知れない)

 さらに8月29日には、識者らによる「東京都は『慰霊の公園』での死者への冒涜を阻止してください」という共同声明も出された。この声明では、そよ風の集会は「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」(オリンピック条例)が定める「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」にあたり、慰霊のために公園を訪れる人々に対する精神的暴力となりうるとして、公園を管理する東京都建設局公園緑地部に「利用制限」をかけること、すなわちヘイト集会を行わせないことを要請している。

 だが、東京都がそよ風に対し、公園の占有許可を取り消したというニュースもないまま、9月1日になった。私は例年、午前中の朝鮮人犠牲者追悼式典が終わったら、2駅先の亀戸に行き、亀戸事件犠牲者之碑に手を合わせてからホテルに戻っているのだが、今年は追悼式典が終わってからも両国に残り、16時前、再び横網町公園に戻ってきた。そよ風らのヘイト集会に対するカウンター行動を行うためである。

 「慰霊祭」参加者とそれに抗議するカウンターとの間で衝突が起きないようにするためか、追悼碑の周りにはバリケードが張られ、多数の警察官が並んで壁を作っていた。だが、追悼碑に近付くのを制止されるわけではなく、私同様カウンターに来たとおぼしき人たちが続々と碑の周りに集まっている。公園内だけで200人くらいはいそうだ。公園の外から抗議しようとしている人たちもいるので、合わせれば300人くらいになるのではないか。そよ風の「慰霊祭」へのカウンター行動はこれまでにも行われてきたが、これほど大勢の人が集まっているのを見るのは初めてのことだった。

 

バリケード

ものすごい数の警察官と公安

「慰霊祭」に抗議するカウンター

 そよ風ら「慰霊祭」参加者は公園の裏側、安田学園口から園内に入り、いったん石原町遭難者碑の付近に集合したようだった。そこから警察の誘導に従って朝鮮人犠牲者追悼碑の前に移動しようとしていた。カウンターの間から「レイシスト、帰れ!」の怒号がわき起こり、公園は騒然となった。私も抗議のプラカードを掲げた。これから彼らのヘイトスピーチを聞かなければならないのかと気が重かったのだが、10分たっても20分たっても、「慰霊祭」参加者は追悼碑の方にやってこない。どうやら、途中で足止めをくらっているようなのだ。そればかりか、気が付くといつの間にか、いつもの石原町遭難者碑の前で「慰霊祭」が始まっていた。最初は事態が呑み込めなかったのだが、どうやら追悼碑の前で集会を行うことを断念せざるを得なくなったようなのだ。

 この時何が起きていたのか、一部始終をそよ風関係者が動画で撮影し、ネットにアップしていた。(続く)