旅と映画

行ったところと観た映画の個人的な記録

大逆ツアー 熊本編1.[大逆事件と熊本]

 熊本県山鹿市にある「大逆事件犠牲者顕彰碑」を訪ねたのは、年が明けたばかりの1月2日のことだ。大逆事件の際、熊本からは松尾卯一太、新美卯一郎、飛松与次郎、佐々木道元の4人が逮捕、起訴されている。4人全員に死刑判決が出るが、飛松と佐々木は特赦で無期懲役減刑、松尾と新美は刑死した。

 4人は俗に「熊本グループ」と呼ばれるが、必ずしも同じ思想を有していたわけではない。松尾は社会主義者であったが、新美はそうではなかった。しかし、自由を希求する点では共通しており、1907年に新聞「熊本評論」を創刊する。飛松はその購読者で、佐々木は事務手伝いをしていた。

 「熊本評論」は論説、論談、時事評論、「同志」の活動報告、詩や小説などから構成されていた。幸徳秋水や森近運平も寄稿しているが、あくまで熊本という地方に軸足を置いていた。「公開状」「当世紳士内証日誌」「ドーアルキャー」などの連載では、熊本で権威とされている人々の不正や謀略を暴き、批判し告発した。俎上に載せられたのは実業家、代議士、学校長、医師、軍人などだ。九州日日新聞社長もいる。このため、官吏侮辱罪などで度々訴えられている。1908年、新聞紙条例違反で発行禁止処分となるが、翌年には飛松を発行人として「平民評論」を立ち上げた。

 現在では九州の中心といえば福岡であるが、この時代は熊本が九州の中心地だった。私は今でも、福岡より熊本に容易に権力になびかない気風を感じる。

 今回の旅の同伴者はヘイトスピーチへのカウンター行動を行っている仲間である、熊本在住のOさんだ。新年早々お付き合いいただいて、ありがたい限り。おかげでとても意義深い一日となりました。(続く)