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今年も9月1日を東京で過ごす2.[朝鮮人犠牲者追悼式典①]

 東京都立横網町公園に、関東大震災時に虐殺された朝鮮人犠牲者の追悼碑が建立されたのは1973年のことである。関東大震災の発生から50年目にあたるこの年、日朝協会東京都連合会が建立を呼びかけ、これに約600名の個人と約250の団体が賛同をした。賛同したのは日朝協会の会長や都議会の各会派の幹事長ほか、国会議員、宗教者、作家、俳優、歴史学者、様々な企業、労働組合などである。つまり、多種多様な人々が立場を超えて賛同したのだ。

 当時はまだ震災を実際に体験した人が多数存命だった。思想信条は違っていても、虐殺を痛ましく思い、それを忘れまいとする気持ちは同じだったのである。横網町公園朝鮮人犠牲者追悼碑は、そのようにして建立された。朝鮮人犠牲者追悼式典もその頃から毎年行われてきた。

 その式典が注目を集めるきっかけとなったのが、2017年、小池百合子都知事が追悼文の送付を取りやめたことである。追悼文は1974年以降、歴代の東京都知事が都民を代表して送付していたものだ。ところが、小池都知事は「都慰霊協会が営む大法要で全ての震災犠牲者を追悼している」ので、個別の対応は行わないとして送付を取りやめたのだ。その背景には、極右団体のロビー活動がある。

 団体の名前は「日本女性の会 そよ風」。女性を中心に構成された団体で、HPによると2022年9月現在の会員数は577名。「そよ風支援隊」と称する準会員が312名。高知県を除く全ての都道府県に会員がおり、決して小さな組織ではない。

 そよ風のメンバーたちは、これまでにも関東大震災時の朝鮮人虐殺を否定する街頭宣伝などを行ってきたが、2017年からは追悼式典が行われているのと同じ9月1日に、横網町公園で「慰霊祭」を行うようになった。もっとも慰霊祭とは名ばかりで、彼女らの目的は追悼式典を妨害することである。2019年には「慰霊祭」の参加者と、妨害に抗議するカウンターの間でトラブルが起きている。

 これを受け、東京都建設局は2020年の公園の使用に際し、追悼式典の実行委員会とそよ風の双方に「誓約書」を書くよう求めてきた。公園の使用に一定の条件を設け、これを守れなかった場合は公園の使用を不許可にするという。こうした誓約書を書かせること自体が、集会の自由を脅かすものである。追悼式典実行委は、誓約書の撤回と昨年までと同様の公園の占有許可を求める声明を発表した。これが大きな反響を呼ぶ。

 自由法曹団東京支部や東京都弁護士会がこれに呼応したほか、127人と1団体の知識人による声明も出されるなど、誓約書の撤回と例年通りの占有許可を求める声が次々と上がった。これ以外にも、普段ヘイトスピーチへのカウンター行動を行っている人々を中心に、東京都への抗議やネット署名が始まる。結果、東京都建設局は誓約書を取り下げ、例年通りの占有許可を出すに至った。実行委をはじめとする、人々の行動が実を結んだのである。

 また、2020年8月には東京都総務局人権部が、2019年9月1日のそよ風らの「慰霊祭」の中での参加者の言動がヘイトスピーチにあたると認定した。このことにより、そよ風の活動にただちに何らかの影響が出るものではないが、東京都が実行委とそよ風を「喧嘩両成敗」のように扱うことはできなくなった。

 追悼式典は20年と21年には新型コロナウイルス感染拡大の影響で参加者を限定する、式典の模様をネット中継するなどして行われた。小池都知事は依然追悼文を送付しないが、総理大臣経験者、映画監督、作家や学者など国内外から心のこもった追悼文が多数寄せられた。そうした経緯を経ての、今年の式典の開催である。(続く)

 

2020年の追悼式典及び歴史修正主義との闘いについてはこちら

9月1日を東京で過ごす1. [東京都議会と歴史修正主義]

9月1日を東京で過ごす2. [そよ風という団体]

9月1日を東京で過ごす3. [追悼する人々の反撃]

9月1日を東京で過ごす4. [9月1日の横網町公園]