旅と映画

行ったところと観た映画の個人的な記録

山川家の墓

 所用のため、高知に行く機会があり、その帰りに岡山によってきた。高知から岡山までは特急南風に乗車。これがとてもいい列車だった。

 南風は、高知と岡山を瀬戸大橋経由で結ぶ特急気動車ディーゼルカー)だ。4両編成(平日は3両)の小さな列車である。JR高知駅を出発してしばらくすると、段々と山の中へ入ってゆく。やがて深い緑色の豊かな水量をたたえた川が見えて来た。吉野川というそうだ。列車は川に沿って走ってゆく。川の両岸は切り立った岸壁だ。ギザギザと鋭くとがった巨岩があれば、丸くなだらかなものもある。

 やがて「大歩危」という駅に到着した。「おおぼけ」と読む。この辺りは大歩危峡といって景勝地で知られ、国指定天然記念物にもなっている。大歩危という名前の由来には諸説あり、「大股で歩くと危ないから」という説がよく知られているが、「歩危」という言葉は山腹や渓流に臨む崖のことを指すそうで、奇岩怪石の多い土地であることを意味しているようだ。なんにせよ、珍しく見どころのある場所だ。

 そこを抜けしばらく平地を走ると、今度は列車は瀬戸大橋を渡る。海の上を列車が走るのだ。残念ながらうず潮は見られなかったが、瀬戸内海の美しい海が窓いっぱいに広がるだけで見応えは十分だ。

 実は行きは岡山から高知まで高速バスに乗ったのだけれども、こんな素敵な風景の数々を楽しめるのなら、南風が断然おすすめである。料金はバスより2千円ほど高いけれど、それだけの価値は十分にある。

 

 さて、JR岡山駅についたら、そこからさらに倉敷に移動。そこが今日の目的地。倉敷には、私が昔から敬愛する山川菊栄の墓があるのだ。倉敷は夫の山川均の郷里であり、菊栄は均とともに眠っている。一度訪ねてみたいと思っていた。

 小腹がすいたので、まずは駅近くでうどんをすする。倉敷名物のぶっかけうどんで、温かなだしに生姜がきいていてホッとする味だ。それから美観地区を歩いてお寺に向かう。山川家の菩提寺は長連寺だ。美観地区をあちこちより道しながら歩いて、石段を登ると山門の横に山川家の墓所がある。しかし、門がありがっちりとかんぬきがかけてある。これはお寺の人に開けてもらわなければいけないのだろうか。

 そこで、ご住職のご自宅とおぼしき家のチャイムを鳴らしてみたが、誰も出てこない。折しも、隣接したお寺から読経の声が聞こえてきた。お取込み中のようだ。お経が終わるまでしばし待つ。20分ほど待ったろうか。木魚や鐘の音の後、読経が途絶え談笑する声が聞えてきた。終わったようだ。もう一度チャイムを鳴らすと、黄色い袈裟を着たご住職が出てきた。

 山川家のお墓をお参りしたいのですが・・・と伝えると、「ああ、勝手に開けていいですよ」と言われて面食らう。なんだ、そんなものなのかと思い、自分でかんぬきをはずして墓所へ入った。

 

長連寺の山門

山川家の墓所入り口

 

 こじんまりとした墓所である。山川菊栄と均のお墓は、真正面にあった。「山川均 山川菊栄 ココニネムル」と書いてある。

 

 

 

 初めて、韓国・聞慶(ムンギョン)にある金子文子の墓を訪ねた時、私はずっと生き別れていた姉と再会をしたような気持ちになった。東京・新宿の管野須賀子の墓を訪ねた時は、小さな丸い墓石が須賀子その人のように思え、抱きしめたくなった。山川菊栄、均の墓はストンとシンプルで、なぜか夫妻の家に遊びに来たような気持ちがした。

 山川菊栄、均の墓に手を合わせた後は、岡山駅に戻り昭和の雰囲気の大衆居酒屋で一杯。気分がよくて少々飲みすぎ、帰りの新幹線では熟睡、博多まであっという間だった。

 

山川菊栄に関する過去記事

特に目的のない旅5.[藤沢の山川菊栄]

特に目的のない旅6.[神奈川県立図書館と山川菊栄]